RPS 今月のケース |
四月 2022
Lisa L Roberts, MD
Hae Yoon Grace Choung, MD
University of Rochester Medical Center, Rochester, New York, USA
臨床経過
症例は70歳男性で、高血圧および、脾腫・血小板減少を伴う原発性骨髄線維症で通院中に定期検査で、蛋白尿の増悪を指摘された。以前の骨髄生検では、白血球減少と異型巨核球を伴う広範な骨髄線維化がみられ、幼若細胞は5%未満であった。症状が進行するためRuxolitinibが数年前から投与された。軽度の蛋白尿が数年継続していたが、最近になって蛋白尿が8g/gCrと増加し、血清アルブミンは4g/dL、腎機能は1.2mg/dLであった。糖尿病歴はなく血清ANA, dsDNAは陰性、補体価は正常値であった。
腎生検所見
生検標本は2片で、HE, PAS, Masson, JMS染色が行われ、計15個の糸球体がみられた。うち1個は全節性硬化に陥っていた。糸球体は腫大性で、軽度から中等度のメサンギウム基質増加及び細胞増生を認めた。巣状に基底膜の分節性二重化や毛細血管内腔が巨核球によって狭小化していた。巨核球マーカーであるCD61染色を行ったが、染色のために作成した追加薄切標本に巨核球を得ることができなかった。1個の糸球体は分節性に硝子化を伴う瘢痕性変化と、ボーマン嚢への癒着を認めた。軽度の尿細管萎縮と間質の線維化が皮質の20%程度にみられた。間質には有意な炎症像はみられず、血管は軽度の動脈硬化性変化を認めた。
免疫蛍光抗体法では免疫グロブリンや補体に対する染色で有意な陽性像はみられない。
電顕では分節性のメサンギウム陥入、基底膜二重化があり、同部では分節性に基底膜内への電子密度の高い血漿浸み込み/硝子化がみられた。足細胞はほぼ全節性の足突起消失と細胞質の微絨毛変化を認めた。
図1 腫大性の糸球体で、分節性硬化像を認める(オレンジ矢印)
図2 係蹄内に巨核球を認める(オレンジ矢印)
図3 糸球体係蹄は巨核球の浸潤(青矢印)を示し、分節性のメサンギウム細胞増生がみられる(オレンジ矢印)
図4 慢性の血栓性微小血管症の所見を分節性に認める(オレンジ矢印)
図5 電子顕微鏡ではメサンギウム基質の拡大、基底膜の二重化、そして足突起のびまん性消失を認める
最終診断
メサンギウム硬化およびメサンギウム増殖性変化、部分的な基底膜二重化と係蹄内巨核球を伴った巣状分節性糸球体硬化症で、骨髄増殖性腫瘍関連(臨床的には骨髄線維症に伴う)糸球体症
討論
骨髄増殖性腫瘍(MPN)は、クローン性の造血疾患で慢性骨髄性白血病、慢性好中球性白血病、真性多血症、原発性骨髄線維症、本態性血小板血症、慢性好酸球性白血病、分類不能の骨髄増殖性腫瘍からなる(1)。一般的に腎障害は少なく、ごくわずかの症例報告と小さなコホート研究がされてきた(2-6)。原発性骨髄線維症はMPN関連腎障害の64-73%を占める(2,3,6)。
最も一般的な腎症状はネフローゼレベルの蛋白尿と腎機能障害である。腎生検では間質の造血幹細胞浸潤として髄外造血の所見を観ることが多く、糸球体所見としては巣状分節性糸球体硬化、メサンギウム硬化や細胞増生、慢性血栓性微小血管症、そして係蹄内造血細胞などの所見を認める。MPNに伴うこのような糸球体病変はMPN関連腎症と呼ばれている。免疫蛍光染色であきらかな陽性所見はみられないことが多い。軽度の慢性TMA所見としては、電顕で糸球体基底膜の二重化や内皮下浮腫、メサンギウム融解などの所見がみられる。足突起の消失は部分的からびまん性(30-95%範囲で平均63%(3))にみられる。Alexanderらの報告(2)ではMPN関連糸球体症のFSGS症例の33%で典型的な原発性ポドサイトパチーにみられるようなびまん性の足突起消失を認めたとされる。まれに細線維様の糸球体腎炎が報告されるが、典型的な細線維性腎炎のような免疫染色結果は示さない(2)。
MPN関連糸球体症の病因については、巨核球由来のPDGFやTGF-βなどの産生亢進の可能性がある。これらの因子はメサンギウム細胞増生や基質産生を促す(7,8)。足細胞におけるTGF-βのアポトーシス促進も足細胞の消失やFSGS形成を引き起こすと考えられる(9)。軽度の慢性TMAは係蹄内の血小板凝集や活性化に伴う二次性の内皮細胞障害に関連しているかもしれない(3)。
MPN関連腎障害は典型的には後期合併症としてみられる(3)。MPNへの治療やステロイド治療にも関わらず、腎の転帰については警戒される。
参考文献
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